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アクティビスト、フェミニスト、クィアとして活動するとある外国大学関係者の生活の中からの視点。(C)flowfree 初めて寄られる方は、カテゴリ:管理人、の”こんにちは”を読んで下さい


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舞踏家 大野一雄の終わらない表現活動

舞踏家 大野一雄の終わらない表現活動_b0058997_16303587.jpgKazuo Ohno: I Dance Into the Light (Germany 2004, 60min)
Peter Sempelという監督が作った 大野一雄という1906年生まれの舞踏家の映画を観た。舞踏という見ただけではなかなか理解できないダンスを大野氏による永遠に続くと思わせる強烈な動きの表現で魅せ、彼のスタジオに学びに来る世界中からの生徒達の眼も通し、観客を色々と考えさせる。息子のよしとさんが主に解説をしているんだがまず驚くのは大野氏が主に話して表現している映像は彼が83歳頃のもの。それでドイツの白人女性プロのダンサーにも弟子として一生懸命教えている。昔の映像では戦争直後の舞踏を始めた頃のダンスというのが写されていた。白黒の映像に顔面が真っ白に塗られている黒い髪の大野氏。真っ白い布のような服装をして底の深い大きな井戸のような穴から何か重そうな物を引っ張る。すると真っ黒の服装をして顔もストッキングのようなもので覆られている不気味な人間が出てくる。黒く焦げた人間のようにも見える。白い服装の人間が戦争で燃えて亡くなった人を助けようとしているのだろうか。それとも悲しみのあまり白い服装の人間の方の気が触れてしまい、亡くなった誰かをストッキングで覆い、弄(もてあそ)んでいるのか。

映像は結構ショッキングなものも多い。例えば大野氏がゆっくりの動きで豚小屋に入り、大きな横たわった豚に近づいて行き、そしてゆっくり口を豚の乳に近づけ吸いだす。ずーっと吸っている。これをショッキングと思って見ていたが横の知らない客で笑っている人間もいた。これは楽しんでいいのか、驚いていいのか。息子のよしとさんの解説は”あそこまでやるとは思いませんでしたねえ。” やっぱり反応は人それぞれ、ということか。

大野氏は胎児の時の表現はまた違う、などと何度か言っていたのでその豚の乳を吸う行動も胎児、大人、動物、豚、人間、メス、男性、などと色々と複雑な意味ああるのかも、と考えてしまった。きっと答えはないんだろうとも思うが。

大野一雄氏は土方巽氏と共に表現の考え方の違いから舞踊から追い出され、舞踏を始めた、と説明される。以前メゾン・ド・ヒミコの映画についてちょっと書いた時に田中泯氏は土方氏を師と仰いでいるそうだ、と書いた。赤児麿という舞踏ダンスから色々な舞台を挑戦している役者も(赤児氏は殺し屋一という映画の主人公のイチを演じた役者大森南朋の父親)元々は土方氏の派だったと聞いている。なかなか奥が深すぎて勉強してもしたりない・・・

大野氏はこの映画で2000年を過ぎた時のイベントにも時には車椅子で出演している。若い生徒さん達と昼間のきれいな花畑の真ん中での舞踏。数人の生徒さんは白い服に顔にはバレーボールを半分切って目に横線だけを入れた、またまた不気味なお面をつけ、黒い三つ編の頭でダンスをしている。ボールが跳ねているような意味なのだろうか。わからないけど色々と考えてしまった。

舞踏家 大野一雄の終わらない表現活動_b0058997_1731058.jpg監督がドイツの大野氏の弟子で髪の毛を全て剃っているダンサー、タニヤに”(やっていることは)あくまでも暗い道へのステップですか”と聞いた。ゆっくりの雰囲気、主に黒と白だけの色使い、悲しみや痛みを感じさせる表現は"究極の暗さ”を表現しているのか、と見られているように思えたのかもしれない。でもタニヤは”え?暗い道へのステップ?”と聞き返し、微笑みながら”いいえ、明るい道へのステップよ”と答えた。

このシーンが印象的だ、と思ったら、これがこの映画のタイトルに引っかかってると気が付いた。そうそう、大野氏の表現はゆっくりな悲しそうな動きから激しい動きと様々で、
時には花を一輪持って動いていたり、花畑のなかで表現したり。
実は筆者も明るい何かを求めているように見えた。だから監督が
暗さについて聞いたときに、”アッチャ~・・・ダメだよ、そんなこといっちゃあ・・・”
と思ってしまった。暗さだけでの表現と見られてしまうのはちょっと理解ないですよね。
大野一雄さんのサイトで彼の歩みなど色々とかなり詳しく読めるので
結構学べた。でも大野氏、土方氏、田中氏と赤児氏の間でも結構な
ポリティクスの違いがあるようなのでもっと知りたい、という知的好奇心を刺激された
映画だった。映画は英語と日本語でした。日本でも見られるものが結構あるようなので
今度是非色々とチェックしたい。
by flowfree | 2005-10-14 17:08 | 映画:ドキュメンタリー